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てづるもづるについて

Squamophis albozosteres

 

 

モヅル紹介です.
 

IMGP0722

Family: Astrocharidae ヒメモヅル科

Genus: Squamophis 

Specific name: albozosteres  
 
 

オーストラリアのビクトリア博物館に所蔵されていたモヅルです.

あまりに特徴的な形だったため一目で新種とわかったのですが,

その後DNA解析や詳しい形態観察を行ううちに,これが新属新種である事が分かりました.
 

この種を記載する際に,Squamophis属も新しく立てたわけですが,

実は処女論文で記載したAsteroschema amamiensisも,その新属に所属する事が分かりました.
 

Squamophis albozosteresをタイプ種として,現在では3種が知られています.
 

①各触手穴に腕針を一本だけ持つ

②体の背面に,茶色く板状の皮下骨片と白く顆粒状の皮下骨片を両方持つ

③白い皮下骨片は,腕では輪状になる
 

といった特徴で他種と区別できます.

SquamophisはSquama は「鱗の」,Ophisは「蛇」という意の合成語で,

albozosteresはalbus「白の」,zoster「環を持つ」という意味の合成語です.
 

IMGP0723

口側はこのように白くてかわいいやつです.


もづる紹介コーナー(Astrocharis monospinosa④)

 

 

ヒメモヅルについての続記です.
 

コペンハーゲンから届いたAstrocharis gracilisのタイプ標本はこちら.
 

DSC_0295

こんな感じで,箱に丁寧に梱包されて送られてきます.

真ん中の小さいのが標本です.

この1個体が,A. gracilisの記載に使われた唯一一個体になります.
 

これに対して,アムステルダム博物館から届いたタイプ標本は2つの瓶に入れられていました.

DSC_2152

これと
 

DSC_2167

これです.
 

ijiami

そして日本近海から記載されたヒメモヅルA. ijimaiの標本がこれです(タイプ標本ではありません).
 

これらの観察を始めたところ,すぐに違和感に気づきました.

明瞭に区別できる形が見つからないのです.
 

先行研究では,A. gracilis, A. ijimai, A. virgoの順に体表の鱗が小さくなるというのですが,

少なくともタイプ標本だけを見てやるとどうにも分けられません.
 

そこで,先日も記事にした新種と思われる個体と,

日本で採れたヒメモヅルも含めて,41個体の鱗の大きさと,体サイズ(盤径)を相関させて比較したところ,
 

どうやらA. gracilisA. virgoのタイプ標本の一部とA.ijimaiの鱗の大きさは同じくらいであり,

A. virgoの別のタイプ標本はそれよりも鱗が小さく,

新種と思われる標本は統計的に鱗が大きい,ということがわかりました.
 

つまり,これまでに認められていた三種は,実は二種の混合だったのです.
 

そこで,これらの結果をまとめて,これまで三種が知られていたヒメモヅル属を,

Astrocharis monospinosaと名付けた新種の記載も含めて,

一減一増の末に,三種にまとめた論文を日本動物学会誌のZoological Scienceに発表しました.
 

http://www.zoology.or.jp/html/01_infopublic/01_index.htm
 

実は,このあたりの詳しい話は↑にも書かれています.
 

この論文は,初めはAstrocharis monospinosaの記載だけで発表しようと思っていたのですが,

もう少しまとまった発表にしたほうがいいのでは?

という藤田先生の意向もあり,

少し粘って分類学的再検討という内容にしました.
 

時間はかかったものの,

結果的に一つの分類群のレビューを初めて完遂することとなった,

思い出深い論文となりました.


もづる紹介コーナー(Astrocharis monospinosa)③

Astrocharis monospinosa は新種であるということがわかりました.

しかし,Astrocharisi属の全3種の原記載を読んでみて,ふと気づいたことがありました.
 

これらは本当に区別できるんだろうか?
 

当時Astrocharisに知られていたのは,
 

A. virgo Koehler, 1904

A. ijimai Matsumoto, 1911

A. gracilis Mortensen, 1918
 

で,体表を覆う鱗が,それぞれ,小,中,大,ということで区別されていました.
 

しかしこれでは具体的な数字がなく,

本当にそれが明確に数値として分けられるのか不明瞭です.
 

こうなってくると原記載を読んデイてもラチがあきません.
 

そこでタイプ標本ですよ.
 

原記載の基となった標本を担名タイプ標本といい,

基本的にはこれらの標本に基づいて種の命名は行われます.
 

上記の三種のタイプ標本の所在を調べていたところ,

A. virgoはアムステルダム動物学博物館に,

A. gracilisはコペンハーゲン大学動物学博物館に,

それぞれ所蔵されている事がわかり,

学芸員さんにコンタクトをとってみたところ,なんと貸出をしてくれるというのです!
 

喜び勇んで申し込みをして数週間後,果たしてそれらの標本は,

はるばる海を越え,果たして私の手元に到着したのです.
 

続く


もづる紹介コーナー(Astrocharis monospinosa)②

Arm midd. ven. 5.0 (2)

科博に所蔵されていた標本はAstrocharis gracilisと同定されていました.

この種はMortensenによって1918年に記載されたものでしたが,

原記載の掲載雑誌が少なくとも国内になかったため,

Döderlein (1927)による別の個体の再記載を頼りにこの種を同定していました.
 

しかしDöderleinの記載と科博の個体はどうも形が異なるのです. 
 

果たしてこの違いは種内変異なのか,

それとも科博の個体は別種なのか?

見極めるためにはやはり原記載を見る必要がありました.
 

国外の図書館に複写を依頼して果たして手元に届いた原記載.

あれほど気持ちを昂ぶらせた文献拝読は未だかつてないかもしれません.

一ページずつページをめくるたびに,疑問が確信に変わっていきました.
 

Mortensen (1918)の原記載は,明らかにDöderlein (1927)と一致しており,

科博の標本とは異なることが分かりました. 
 

すなわちこの時点で,手元の標本は新種であるという事が明らかになったのです. 
 

しかし原記載を読んで気づいたことはこれだけではありませんでした.

続く.


もづる紹介コーナー(Astrocharis monospinosa)

DSC_2538
撮影[国立科学博物館:藤田敏彦]

Family: Astrocharidae ヒメクモヒトデ科

Genus: Astrocharis ヒメモヅル属

Specific name: monospinosa オオヒメモヅル(新称) 
 

非常にレアなモヅルです.

まずヒメモヅル属からして珍しい.
 

体の表面がブヨブヨの皮か細かい顆粒に覆われていることの多いツルクモヒトデ目ですが,

この属は体が鱗に覆われており,かつ輻楯(ふくじゅん)と呼ばれる盤の背面の板状骨片が,

裸出する,という特徴があります.
 

1.0

特に,この輻楯の裸出という特徴は,他のツルクモヒトデ目にはほとんど見られません.

私の中のかっこいいモヅルランキングベスト3には間違いなく入る属です.
 

生息域も,海山の頂上,約300 m以深に限られており,

種数も本種を含めて3種しか知られていません.
 

Astrocharis monospinosaは,
 

①体を覆う皮下骨片が他の種に比べて大きい(0.5-1 mm程度)

②各触手孔に生えている腕針が1本

③体内の側腕板や腕骨が腕の基部で裸出する
 

といった特徴によって区別されます.
 

私が科博の学生になって,博物館の標本を片っ端から見ていた時に,

この標本を見つけました.ヒメモヅル属である事はすぐにわかったのですが,

新種だという確信は得られませんでした.
 

その後,調査を進めているうちに本種が新種である事が突き止められていきました.
 

続く.


クモヒトデの腕骨

20120307_Stegophiura

こちらはクモヒトデの腕の中にある腕骨です.

我々の持つ脊椎のようにこの腕骨が腕の中に連なっているため,

英語ではVertebraと呼ばれます.
 

これは腕の先端側から見た画像で,

腕の基部側から見ると,この突起形状がフィットするような形になっています.

つまり,お互いが関節構造を持っています.
 

この関節の構造は分類群によって違っており,

古くから,主に科以上の高次分類群の分類形質に使われてきました.
 

この表面を拡大したのが以下の画像です.
 

20120307_Stegophiura000001

なんだか縞々が見えますよね.

実はこれ,クモヒトデの腕骨に刻まれる「年輪」と考えられています.
 

季節輪であるとの報告もありますが,

実際にこの輪がどのような生物学的特性によって刻まれているのかは,

いまだはっきりとはわかっていません.
 

しかも,実はこれは更新統から得られた化石なのです.

化石にも残るこの輪の特性がわかれば,

クモヒトデが生息していた古環境の復元も可能になるのではないかと考えています.
 

少し前からいろいろと手を広げて研究を進めているのですが,

最近それらの結果が徐々にまとまってきつつあります.
 

今年はいろいろと発表できることがありそうで,今からワクワクです.
 

それにしても,無限の可能性を秘めたこのクモヒトデ.

そろそろ一緒に研究をしてくれる仲間が現れないかなーと考えたりする今日この頃です.


てづるもづるについて~クモヒトデの体の仕組み④~

ARm

こちらはミツイタクモヒトデの腕の中部あたりの口側の画像.

画面の上側が腕の先端,下側は腕の基部(盤より)です.
 

前回記事にした,腕の反口側の構造同様,

口側でも,腕節を構成する以下の骨片のセットが観察できます.
 

①口側正中線上に並ぶ「腹腕板」

②その側面にある「側腕板」

③反口側でも見られる「腕針」

④通常は最も口側の根元にある触手孔の蓋の役割をする「触手鱗」
 

クモヒトデが骨片より成る動物である事が伺えるかと思います.

勿論内臓などの内部構造もあるのですが,それはまた別の機会に.
 

因みに,ツルクモヒトデ目では触手鱗がなく,

最も口側の腕針が触手鱗の役割を果たしています.


てづるもづるについて~クモヒトデの体の仕組み③~

出張の様子のレポートはひとまず置きまして,

クモヒトデの体の仕組みについて書きます.

これまで盤の仕組みついて解説をしましたが,

次は腕について.
 

Aboralarm

こちらは,ミツイタクモヒトデの腕の反口(背)側です.
 

クモヒトデの腕は,竹のような節の繰り返し構造になっています.

この節を腕節といい,一つの腕節は,

いくつかの骨片の組み合わせより成ります.
 

背側から観察できるのは主に,
 

①背腕板という板状骨片,

②その側面にある側腕板という板状骨片,

③側腕板に関節している腕針という針状骨片,
 

の三種類です.
 

特に腕針は棒状,フック状,鋸状など形が多様で,

その数も一腕節において一本から十数本と変化大きいため,

極めて重要な分類形質となっています.