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動物学のためのラテン語文法

おさえておきたい学名文法

※この記事は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」を参照しています。また、間違いなどございましたら是非ご連絡ください.

 

種名の表記にはいろいろなパターンが存在する.

  • 亜属は大文字で書き始め、属名の後で()内に入れる:
    • Asteroschema (Ophiocreas) caudatus Lyman, 1879 (クモヒトデ)

 

  • 亜種小名は小文字で書き始め、種小名の後につける
    • Gorilla gorilla gorilla (ニシローランドゴリラ)

 

  • 集群は小文字で書き始め、種小名の前で()内に入れる(動物):
    • Ornithoptera (priamus) croesus Wallace, 1865 (チョウ)

 

  • 亜種の種群は小文字で書き始め、()内に入れて種小名と亜種小名の間に挿入する
    • Aus aus (aus) aus

Xus (Xus) (aus) aus (aus) aus (6語)もあり得る!

 

  • 属名は主格単数の名詞限定だが,種小名は形容詞でも,名詞でも可

  Mus rattus (ネズミ―ネズミ)

 

  • 種小名が形容詞の場合,属名と性の一致をしなくてはならない

  Asterochema amamiense ⇒ Squamophis amamiensis

 

  • 良く使われる語尾とその性:-us (男性), -a (女性), -um(中性

 

  • 種名をラテン語で表記するのは印刷上のならわしに由来で,厳密にはイタリックにする必要はない

 

  • 女性への献名語尾は-ae,男性は-i

 Calyptogena okutanii, Basilissa soyoae

 

  • 地名を表す語尾:-ensis, iensis, -ense, -(a)nus, inus, icus

  Zosterops japonicus, Nipponia nippon

 

  • 名前のアポストロフィーなどは除く(動物)

  Ophiura döderleini ⇒ Ophiura doderleini

 

  • 名前の接頭辞は,連結している場合のみ残す

  Vanderbilt ⇒ vanderbilti, von Letkemann ⇒ letkemanni

 

  • 学名は複数文字発音可能でないといけないが,発音さえできれば,意味が無くても可

  Meringa hinaka

 

  • 原則­学名に記号はつけないが,形質を表すアルファベットのみ,ハイフンで結べる(動物)

  Polygonia c-album (チョウ:シータテハ)

 

  • 属名と種小名の組み合わせは動物の中で唯一無二のものでなくてはならない(動物では属名のリストがある)

動物学のためのラテン語文法解釈

※この記事は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」を参照しています。また、間違いなどございましたら是非ご連絡ください.その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

はじめに

  •  種名は,属名+種小名より成る.属名は主格単数の名詞であり,種小名はその修飾語である.
  • ラテン語は語尾変化言語であり,その単語は,変化しない語幹と,変化する語尾からなる.語幹がわかれば単語同士を連結させる,単語に接尾辞をつける,地名,地域名を種小名にするなどが可能となるため,語幹がわかるようになることは非常に重要である.
  • 語尾は,(種名に使われる範囲内では)性,修飾する単語の性,数に応じて変化する.
  • 種小名に用いられるラテン語の格は,主格属格の二つのみ.
  • 種小名に用いられる品詞は名詞,形容詞,副詞,動詞(ただし分詞化する必要がある),数詞,前置詞であるが,主に使われるのは名詞と形容詞である.

性の一致

種小名に形容詞を用いる場合,その性は属名の性に合わせなくてはならない.例えば属名が女性名詞であれば,種小名も女性にしなくてはならない.したがって,新たな学名をつくる際や,ある種が属を移る際には,その種小名が形容詞である場合,属名の性との一致が必要となる.これは,辞書の引き方さえわかっていれば,簡単に判定することができる.

 

辞書を引き,単語の性,語幹,語尾,語尾変化を判定する

名詞の場合

見出し語(主格・単数),語尾変化(属格単数),性.が載せられている.このうち,語尾変化と辞書巻末の変化表,あるいは「種を記載する」の表8.1 を照らし合わせれば,語幹を決定できる.

例)abruptum, -i n. 深淵:(研究社 羅和辞典)

→名詞の語尾変化表から,この単語は中性名詞の第2 変化であり,その語幹がabrupt であることがわかる.

 

形容詞の場合

見出し語(主格・単数),語尾変化(修飾する性に伴う変化).が載せられている.

例) admirabilis, -e adj. 深海の:(研究社 羅和辞典)

→形容詞の語尾変化表から,この単語は主格単数形が男性と女性で同じく,中性では別の第3 変化であり,その語幹がadmirabil であることがわかる.

 

こうして語幹を判定することができれば,属名,種小名の意味を読み解くことはもちろん,種名作成も自由自在である.

 

様々な種小名の作り方

種小名の単語の構成には,様々なパターンがある.

 

  • 一単語の形容詞を用いる:非常に簡単だが,それゆえに既に使われている場合が多い.語尾を変化させることで比較級,最大級にすることもできる(種を記載する,p190 参照)
  • 過去分詞,現在分詞を用いる:動詞を分詞化したものを種小名に用いることもできる.動詞には第五変化までが存在するが,辞書を引いて,①第一変化であった場合は,その語幹に-ans をつけ,②第二~第五変化であった場合はその語幹に-ensをつければ現在分詞となる.また,変化形に関係なく,語幹に-us, -a, -um をつけると過去分詞となり,形容詞のように扱うことができる.
  • 名詞を用いる:種小名は,属格と同格の名詞にしてもよい.この場合,語尾は属の性と一致させる必要はない.
  • 合成語を用いる:複雑な意味を持たせることができる.基本的には一番目の単語の語幹に連結母音(a, o, i)をくっつければよく,様々な品詞を合成することができる.二番目の単語が形容詞の場合,その単語の語尾だけが性の一致をうける.連結母音は,響きの良いものを使うようである.
  • 形容詞+形容詞or 名詞+形容詞:辞書を引けばすぐにつくれて簡単である.
  • 接頭語(副詞,前置詞,数詞)+(名詞,形容詞,動詞,副詞):副詞,前置詞,数詞などの接頭語は語尾変化しないため,辞書の見出しに出てくる単語を,そのまま後ろの品詞にくっつけるだけでよい.
  • 名詞+名詞:二番目の名詞はそのまま名詞として用いてもよいが,過去分詞化する場合は属名との性の一致が必要となる.
  • 地名に基づく種小名:地名に,接尾辞-ensis-iensis を伴うことで,形容詞として扱われる.但し,属名が中性の場合は-ense-iense にしなくてはならない.また,その他に,-(a)nus, -inus, -icus などの接尾辞を加えて種小名とすることもできる.
  • 献名による種小名:献名したい人の名前の最後に,男性に個人名に基づく場合は-i を、女性の個人名に基づく場合は -ae を付ければよい.人名に基づいた種小名は,属格の名詞として扱われる.ちなみに、船はラテン語では女性名詞なので、船に基づく場合は-aeを付ける(例:soyomaruae: 蒼鷹丸に基づく場合)など。
  • 無意味な種小名:発音さえ可能であれば,ランダムに単語を並べたものを種小名としてもよい.このようにして作った名前は,一切語尾変化しない.

 

参考

辞書に掲載されている略語:

adj. 形容詞(adjective);adv. 副詞(adverbe);gr. ギリシア語起源の(Greek);num. 数詞(numbers);pl. 複数(plural);praef. 接頭語(prefix);praep. 前置詞(preposition);s. 名詞(substantivum);f. 女性(feminine);m. 男性(masculinum);n. 中性(neuter);suff. 接尾辞(suffix);v. 動詞(verbum)

引用

ジュディス・E・ウィンストン/著,馬渡峻輔・柁原宏/訳,2008.種を記載する,第8 章 種を命名する:語源学:pp. 179-209.

平嶋義宏/著,2002.生物学名概論

小野展嗣/編,2009.動物学ラテン語辞典