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動物学のためのラテン語文法解釈

※この記事は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」を参照しています。また、間違いなどございましたら是非ご連絡ください.その他の引用文献はページ末に付してあります.

 

はじめに

  •  種名は,属名+種小名より成る.属名は主格単数の名詞であり,種小名はその修飾語である.
  • ラテン語は語尾変化言語であり,その単語は,変化しない語幹と,変化する語尾からなる.語幹がわかれば単語同士を連結させる,単語に接尾辞をつける,地名,地域名を種小名にするなどが可能となるため,語幹がわかるようになることは非常に重要である.
  • 語尾は,(種名に使われる範囲内では)性,修飾する単語の性,数に応じて変化する.
  • 種小名に用いられるラテン語の格は,主格属格の二つのみ.
  • 種小名に用いられる品詞は名詞,形容詞,副詞,動詞(ただし分詞化する必要がある),数詞,前置詞であるが,主に使われるのは名詞と形容詞である.

性の一致

種小名に形容詞を用いる場合,その性は属名の性に合わせなくてはならない.例えば属名が女性名詞であれば,種小名も女性にしなくてはならない.したがって,新たな学名をつくる際や,ある種が属を移る際には,その種小名が形容詞である場合,属名の性との一致が必要となる.これは,辞書の引き方さえわかっていれば,簡単に判定することができる.

 

辞書を引き,単語の性,語幹,語尾,語尾変化を判定する

名詞の場合

見出し語(主格・単数),語尾変化(属格単数),性.が載せられている.このうち,語尾変化と辞書巻末の変化表,あるいは「種を記載する」の表8.1 を照らし合わせれば,語幹を決定できる.

例)abruptum, -i n. 深淵:(研究社 羅和辞典)

→名詞の語尾変化表から,この単語は中性名詞の第2 変化であり,その語幹がabrupt であることがわかる.

 

形容詞の場合

見出し語(主格・単数),語尾変化(修飾する性に伴う変化).が載せられている.

例) admirabilis, -e adj. 深海の:(研究社 羅和辞典)

→形容詞の語尾変化表から,この単語は主格単数形が男性と女性で同じく,中性では別の第3 変化であり,その語幹がadmirabil であることがわかる.

 

こうして語幹を判定することができれば,属名,種小名の意味を読み解くことはもちろん,種名作成も自由自在である.

 

様々な種小名の作り方

種小名の単語の構成には,様々なパターンがある.

 

  • 一単語の形容詞を用いる:非常に簡単だが,それゆえに既に使われている場合が多い.語尾を変化させることで比較級,最大級にすることもできる(種を記載する,p190 参照)
  • 過去分詞,現在分詞を用いる:動詞を分詞化したものを種小名に用いることもできる.動詞には第五変化までが存在するが,辞書を引いて,①第一変化であった場合は,その語幹に-ans をつけ,②第二~第五変化であった場合はその語幹に-ensをつければ現在分詞となる.また,変化形に関係なく,語幹に-us, -a, -um をつけると過去分詞となり,形容詞のように扱うことができる.
  • 名詞を用いる:種小名は,属格と同格の名詞にしてもよい.この場合,語尾は属の性と一致させる必要はない.
  • 合成語を用いる:複雑な意味を持たせることができる.基本的には一番目の単語の語幹に連結母音(a, o, i)をくっつければよく,様々な品詞を合成することができる.二番目の単語が形容詞の場合,その単語の語尾だけが性の一致をうける.連結母音は,響きの良いものを使うようである.
  • 形容詞+形容詞or 名詞+形容詞:辞書を引けばすぐにつくれて簡単である.
  • 接頭語(副詞,前置詞,数詞)+(名詞,形容詞,動詞,副詞):副詞,前置詞,数詞などの接頭語は語尾変化しないため,辞書の見出しに出てくる単語を,そのまま後ろの品詞にくっつけるだけでよい.
  • 名詞+名詞:二番目の名詞はそのまま名詞として用いてもよいが,過去分詞化する場合は属名との性の一致が必要となる.
  • 地名に基づく種小名:地名に,接尾辞-ensis-iensis を伴うことで,形容詞として扱われる.但し,属名が中性の場合は-ense-iense にしなくてはならない.また,その他に,-(a)nus, -inus, -icus などの接尾辞を加えて種小名とすることもできる.
  • 献名による種小名:献名したい人の名前の最後に,男性に個人名に基づく場合は-i を、女性の個人名に基づく場合は -ae を付ければよい.人名に基づいた種小名は,属格の名詞として扱われる.ちなみに、船はラテン語では女性名詞なので、船に基づく場合は-aeを付ける(例:soyomaruae: 蒼鷹丸に基づく場合)など。
  • 無意味な種小名:発音さえ可能であれば,ランダムに単語を並べたものを種小名としてもよい.このようにして作った名前は,一切語尾変化しない.

 

参考

辞書に掲載されている略語:

adj. 形容詞(adjective);adv. 副詞(adverbe);gr. ギリシア語起源の(Greek);num. 数詞(numbers);pl. 複数(plural);praef. 接頭語(prefix);praep. 前置詞(preposition);s. 名詞(substantivum);f. 女性(feminine);m. 男性(masculinum);n. 中性(neuter);suff. 接尾辞(suffix);v. 動詞(verbum)

引用

ジュディス・E・ウィンストン/著,馬渡峻輔・柁原宏/訳,2008.種を記載する,第8 章 種を命名する:語源学:pp. 179-209.

平嶋義宏/著,2002.生物学名概論

小野展嗣/編,2009.動物学ラテン語辞典