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RESEARCH

※研究上のコラムはコチラ

現在の研究:ツルクモヒトデ目の系統分類学的研究

ツルクモヒトデ目は岩やヤギなどの他の動物などに絡み付いて生活しているために極めて移動性が低いと言われております。 しかし実際には海山などの水流の早い場所で、局所的にではありますが世界中に分布しており、 どのようにして分布を広げてきたのかは明らかにはされておりません。 従ってその系統進化を探ることで、深海における底生生物の種分化や、 地史的なイベントを探る上での手がかりが得られるのではと期待できます。

これまでツルクモヒトデ目を用いて、形態観察と分子系統解析的手法を用いることで その系統進化の一端を明らかにしてきました。

(1) 形態に基づく分類学的再検討

ツルクモヒトデ目は世界で4科48属に185種が知られています。 2007年からこれまでに、所属していた筑波の国立科学博物館の標本だけでなく、 アムステルダム大学動物学博物館、コペンハーゲン大学動物学博物館、 ニュージーランド大気水圏研究所、ハーバード大学比較動物学博物館、スミソニアン自然史博物館、 パリ国立自然史博物館、オーストラリアのビクトリア博物館などを直接訪問し、所蔵してあった標本の観察を行いました。

その結果、いくつかの同種異名(1種に複数の名前が与えられてしまうこと)や、未記載種を発見しました。 これらは、随時論文として発表を行っています。

今後、他の博物館の標本や、様々な海域から得られた標本を観察することで、 更なる分類学的新知見が得られると期待できます。

undescribedspecies
これまでに発見した未記載種たち。

 

(2) 分子系統解析

ツルクモヒトデ目はさらに細かい4つの科に分けられていますが、 この分類はこれまで形態観察の結果にのみに基づいていました。 そこで、世界中のDNAの解析に適した標本を集め、DNAの配列を比較する解析を行ってみました。 約80種の核やミトコンドリアの一部の遺伝子領域の解析を行ったところ、 得られた系統樹はこれまでの分類では説明できなかったため、 新しい分類体系を設立する必要があることがわかりました。

この結果を基に、これまで用いられてこなかった体の内部の骨片なども含めた詳細な形態観察を行ったところ、 こうした系統を反映する形態形質を発見するに至りました。 この結果、新しい上科・科・亜科などが設立されることになり、 随時論文として発表しています。

このれ結果からツルクモヒトデ目の科階級群の分類についてはある程度の決着はつきましたが、 属などのさらに細かい部分の分類にはまだまだ不明瞭な部分が残されています。 今後はさらにたくさんの種や遺伝子領域を用いることで、 本目の系統分類への理解を深めたいと考えています。

分子系統解析の結果認められた科階級群の系統分類の変遷
分子系統解析の結果認められた科階級群の系統分類の変遷

 

(3) 腕の分岐の進化的意義

ツルクモヒトデ目の種の一部は、腕が分岐するという非常に特徴的な形態を有しております。 これまで、20世紀の前半に、腕の分岐の有無に基づいた科の分類などが行われたことはありましたが、 その進化的な意義が考察されたことはこれまでほとんどありませんでした。

そこで、ツルクモヒトデ目の種の多様性が最も高い西太平洋海域に注目し、 収集したツルクモヒトデ目標本の情報と、これまでの過去の採集記録、併せて約950件を全てまとめました。

その結果、腕の分岐しない、単一な種は約40 mよりも浅い深度には生息していないのに対して、 腕の分岐する種はそれよりも浅い海域にも生息していることが明らかとなりました。

(2)の研究で明らかになった分子系統樹では、腕の分岐する種はそれぞれの系統の派生的な位置に出現しており、 腕の分岐という特徴は、少なくとも一回の進化では説明がつかない形質であるということがわかりました。

クモヒトデ綱の他の種は全てが腕の分岐しない単一な種であるため、 腕の単一な種は、本目の中では祖先的な形態を有していると考えられます。 すなわち、ここから、腕の単一な深海起源の種のうち、 腕の分岐という形質を獲得した種が浅海にも適応できたという事が考察されました。

今後は本目の行動や発生、また食性などの生態学的な視点を取り入れることで、 多角的にこの進化現象を検証していきたいと考えています。

ツルクモヒトデ目の系統樹と、腕が単一な種のマッピング。赤で示したクレードは腕の分岐するグループを表す。
ツルクモヒトデ目の系統樹と、腕が単一な種のマッピング。赤で示したクレードは腕の分岐するグループを表す。