ヒメモヅルについての続記です.
コペンハーゲンから届いたAstrocharis gracilisのタイプ標本はこちら.
こんな感じで,箱に丁寧に梱包されて送られてきます.
真ん中の小さいのが標本です.
この1個体が,A. gracilisの記載に使われた唯一一個体になります.
これに対して,アムステルダム博物館から届いたタイプ標本は2つの瓶に入れられていました.
これと
これです.
そして日本近海から記載されたヒメモヅルA. ijimaiの標本がこれです(タイプ標本ではありません).
これらの観察を始めたところ,すぐに違和感に気づきました.
明瞭に区別できる形が見つからないのです.
先行研究では,A. gracilis, A. ijimai, A. virgoの順に体表の鱗が小さくなるというのですが,
少なくともタイプ標本だけを見てやるとどうにも分けられません.
そこで,先日も記事にした新種と思われる個体と,
日本で採れたヒメモヅルも含めて,41個体の鱗の大きさと,体サイズ(盤径)を相関させて比較したところ,
どうやらA. gracilisとA. virgoのタイプ標本の一部とA.ijimaiの鱗の大きさは同じくらいであり,
A. virgoの別のタイプ標本はそれよりも鱗が小さく,
新種と思われる標本は統計的に鱗が大きい,ということがわかりました.
つまり,これまでに認められていた三種は,実は二種の混合だったのです.
そこで,これらの結果をまとめて,これまで三種が知られていたヒメモヅル属を,
Astrocharis monospinosaと名付けた新種の記載も含めて,
一減一増の末に,三種にまとめた論文を日本動物学会誌のZoological Scienceに発表しました.
http://www.zoology.or.jp/html/01_infopublic/01_index.htm
実は,このあたりの詳しい話は↑にも書かれています.
この論文は,初めはAstrocharis monospinosaの記載だけで発表しようと思っていたのですが,
もう少しまとまった発表にしたほうがいいのでは?
という藤田先生の意向もあり,
少し粘って分類学的再検討という内容にしました.
時間はかかったものの,
結果的に一つの分類群のレビューを初めて完遂することとなった,
思い出深い論文となりました.